Part 9 再び羽田へ
 

カメラとレンズをバッグにしまい、最後の離陸を撮影した窓の前を離れた。エスカレーターに向かう途中に飛行機グッズの店があったので、今日の日の記念に何かRainbow777にまつわるものがあれば買って行こうと店内を見回した。しかし見つからなかった。すでに売り切れてしまったのか、それとももはや商品性が無いのだろうか。展望ホールの外に出でバス乗り場を目指す。さっきまでの雲はどこかに消えすっかり青空が広がっていた。雲のいたずらにちょっと空を恨んだが、澄んだ青空はその時の自分の気持ちそのままだった。ここまですべて満足のいく形で進んでいる。夕べまでの葛藤がウソのように晴れ晴れとした気分だった。さっきの撮影で余ったいたRVP50でその空を切り取った。
15時過ぎ、ターミナルに戻った。予約してある帰りの便は16時10分発スカイマーク、羽田17時15分着。009Dが羽田に戻ってくるのは19時30分。2時間近い待ち時間がある。せっかく大阪に来たのだから、以前住んでいた時好きだった明石焼(東京ではあまり見かけない)を食べたいと思っていた。帰りの便を17時発1312便に変更し、明石焼の店を探すことにした。大阪の空港なのだからタコ焼屋は当然あるだろうと思っていたら、どこを探してもない。案内係の人に聞いてみると、タコ焼き屋は無いけれどメニューに置いてある店はあり、そこには明石焼もあるとのことだった。店はすぐ見つかり「明石焼生ビールセット」を注文した。明るい時間にビールは飲まない主義であるが、結構汗をかいたのと今日は特別な日ということでためらいなく注文した。ビールを二口ほどのみフーッとため息をつく。さっきまでの展望ホールでのシーンがよみがえってくる。バックから1Dを取りだし写真をモニターで見始めた。やがて明石焼がやってきた。食べながらもモニターを見ていた。しかし食べたかった明石焼なのにこの時の味を覚えていない。手と口は動いていたものの神経はモニターに集中していたのだろう。箸をのばすともう明石焼は無かった。1Dをバックに仕舞いジョッキに残ったビールを飲み干して店を後にした。しばらくターミナルをふらついた。あたりにはさまざまな人がいる。出張のサラリーマン、海外旅行に向かう人・帰ってきた人、ディズニーランドの袋を持った家族連れやカップル。そして自分は写真を撮るだけためにここにやってきた人。空港島から1歩も出ずにここを後にする。まわりの人から見れば奇異に思うかもしれない。でも今日は何を言われたって、後ろ指をさされたって構わない。胸を張って手荷物検査場に向かった。
搭乗ロビーに入ったのは16時10分頃。少し早いが時間までここで撮って過ごそうと思っていた。搭乗口のそばまでいくと当初乗るはずだったスカイマークからボーディングブリッジが外れるところだった。程なくプッシュバックが始まると思っていたがいっこうに動く気配はない。プッシュバックを見送るべく機首の前のガラス際に立っていたスカイマークの女性スタッフも手持ちぶさた気味。結局10分くらいしてからようやくプッシュバックが開始された。アナウンスによると羽田が悪天候のため出発規制がかかっているらしい。関空は晴れているが東京は台風の影響が出始めたのだろうか。ビックバードに電話して状況を聞いてみた。かなりの雨が降っていて相変わらず風も強いらしい。滑走路は?と尋ねてみたが、そこではわからないようだ。展望デッキは1タミ2タミとも閉まっているとのことだった。出発規制がかかるということはかなり視程が悪いはず。風の状況から判断してILSの22アプローチだろう。009Dのことが少し気にかかったが、同じ空港に到着する上、自分の便の方が1時間半ほどが早い。遅れても009Dも同じ時間くらい遅れるだろうと思っていた。展望デッキが閉まっているとなると009Dの到着は降機後そのままロビーに残りそこで撮るしかない。降機後長時間留まるのは警備員や警官に注意されて追い出されたりすると困るなと、少し気が引けたが、その行為を禁止する決まりは見たことが無い。千歳や福岡は搭乗と到着がロビーで分離されているが羽田はそうなっていない。ここ関空もそう。ロビーで撮れる空港は我々には有り難いものである。
外はすっかり台風一過の空だった。リゾッチャやスタアラ、そしてようやく上がったスカイマークを撮りながら出発時刻までの時間を過ごした。そうこうしているうちに1712便の出発時刻になった。しかし搭乗はいっこうに始まらない。相変わらず出発規制がかかっているようで、搭乗開始は17時15分頃になるとアナウンスしていた。携帯で009D虹塗装最終便1030便の状況を調べてみた。今のところ表示は定刻の18時発のままだった。
最悪の事態、欠航になることはなさそうと安堵した。
ようやく機内への案内が始まった。席はクラスJの左窓側。こちら側だと16や22の時、羽田での到着時に結構楽しめるので、夏場飛行機に乗る時は左窓側をいつも確保するようにしている。隣は空席だった。せっかくのクラスJ、足下を広くとるためアルミトランクを隣のシートに置き、シートベルトで固定した。やがてドアクローズ。きっちりドアモード変更のアナウンスが流れた。しかしやはりブッシュバックは始まらない。「羽田空港混雑のため〜」のアナウンスが流れている。30分くらい待たされるとちょっといやだな、と思っていたが10分くらいで機体はRW24へ向けてプッシュバックを開始した。窓の外にはターミナルが見えている。国内線の737やユナイテッドの777が傾き始めた夕陽に照らされはじめていた。やがてグランドスタッフに見送られながらタキシングが始まった。3時間ほど前009Dが通った道を進んでいく。エンドに近づくと展望ホールが見えてきた。屋上に人の姿が見えた。何時頃開放になったのだろうか。この人達の目にはにはこれから台風一過の鮮やかな夕暮れのシーンが映ることだろう。しばしのホールドの後1312便は羽田に向け関空を飛び立った。上空に昇ると下の方は雲が広がっていて地上は見えない。しかし正面に目をやると初めて見るような夕焼け空が広がっていた。遠征でも出張でもこの時間帯に飛行機に乗ることはほとんど無い。1Dを取りだし窓越しに見事な空を撮影した。この便は東に向かって進んでいる。見事な空のショーが広がっているのは西の空。羽田に向かう時房総半島のあたりまで来れば、機首を北に向ける。雨がやみ雲が晴れたのか地上も見え始めていて、野島崎が見えてきた。もうすぐ向きを変えるはず。その時に備えてカメラを構えた。しかしベルトサインが点灯。デジカメは使用禁止になった。よっぽどEOS-3を出そうと思ったが、ファインダー越しではなく、目に映る光としてこの目に焼き付けることにした。機体が左に傾く。オレンジ色に染まった空と雲、太陽は半分雲に沈んでいた。まるで絵のような光景が続く。そして夕陽に染まった美しい空は羽田のRW22に着陸し、長いタキシングの後、南ウィングにスポットインするまで続いた。今日の空から今日の日の自分への贈りものだったのかもしれない。出来ることなら今日の009Dにこの空を見せてあげたかった、この空に降ろしてあげたかった、そしてこの空を舞い虹の帯に夕陽を浴びる009Dを撮りたかった。しかしもうそれは叶わない。羽田到着18時30分過ぎ。009Dの到着まであと1時間。

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