Part 8 Last Takeoff
 

着陸の撮影終了後、スポットが見える場所で昼食を摂った。JASのロゴを見ながらいろんなことを思い出していた。初めて撮影に行った時のこと、遠征のこと、早起きして出勤前に夜明けの羽田に行ったこと、いつもそこにRainbow777があった。そして今も視界には見えている。でもそれも今日でおしまい。たとえ塗装変更の日程が変わったり、機材繰りの関係で今日がラストフライトではなくなってしまったとしても、もう会うつもりはない。(1〜2ヶ月となれば話は別だが・・)だから今日関空まで来た。ここを飛び立っていったあと、一足先に羽田に戻って、君の帰りを待ってるよ。そうささやいて昼食の席を立った。タバコを吸うために1階の駐車場のそばに1度下りた。そこからもスポットが見える。フェンス越しになるがそこでも1枚撮っておいた。
来た時に見つけておいた離陸を撮影する場所に移動した。着陸の時は薄日が射していたがこの頃になると太陽は雲に隠れてしまい、少し暗くなってしまっていた。この時点で残っていたフィルムはISO50のベルビアとフォルティア。EF70-200F4Lを使うつもりでいたが、ISO50ではブレが心配だった。フィルムを入れずにISO50にセットし開放でのシャッター速度を測ってみる。1/125から1/160。テレ側にした時、ブレる可能性が高い。そこでこの状況でズーミング出来ないのは痛いが、羽田での手持ち夜撮用に持ってきたEF135mmF2LにExtender1.4xをつけてを使うことにした。これなら189mm F2.8でシャッター速度が1段稼げる。画角的にも機体がはみ出すことはなさそうだった。エアバンドをデリバリーに合わせる。国際空港だけ合って海外の空港名がいろいろ聞こえてくる。やがて「JapanAir2505 Clear to NewChitose Airport」の交信が聞こえてきた。もうすぐだ。周波数をグラウンドに切り替え、カメラの設定を再度確認してその時を待つ。そして聞こえてきた「JapanAir2505 pushback approved Runway24」のコール。009Dが静かに後退を始めた。その頃、誘導路・滑走路には暗くなったせいか、試験点灯かわからないが、誘導灯の灯りがともされていた。こちらに向かって真っ直ぐのびる一本の緑の筋。その線上にピタリと乗った時009Dの動きは止まりグレーマスクの機首をこちら側に向けた。やがてトーイングカーが離れエンジンの音が響きはじめ、最後の離陸撮影に向けてタキシングを開始した。真っ直ぐ進んで来ることは予想していなかった。この時1DにつけていたのはEF100-400mm。もっとグッと引き寄せて撮りたいと思った。急いで300mmF4にExtender2xを着け100-400mmと交換した。しかし時すでに遅し、機体は誘導路に入ってしまった。何枚か撮った後再び100-400mmに戻した。この時点で離陸順序は2番目。先発の上海航空は着陸機を待ってていた。ここで009Dも動きを止める。こうして撮影するのもこれが「最後」と思いながらシャッターを押しつづける。着陸機が到着し上海航空が滑走路に入った。それにつれて009Dがホールドポジションに着く。最後の時が刻一刻と近づいている。その時、空を覆っていた雲の隙間から日が射し始め、RWエンドが日差しに包まれた。スポットライトのような光を浴びながら、好きな左側の姿を惜しみもなく見せながら、009Dは離陸の時を待っている。そして上海航空が離陸し「Taxi into Posion Hold」のコールが009Dにかかった。再び静かに動き始め、テールを見せながら今度は機体の右側を見せていく。この瞬間、先程の着陸の時と同じ緊張感に襲われた。一瞬体が硬くなった。機首を滑走路に向け静止した。タワーからのコールはまだ無い。「このままコールが来ないでくれ・・」と願いながらシャッターを押し続けていた。
そして、耳に聞こえてきてしまった「JapanAir2505 cleared for Takeoff」。エンジン音が高まり、轟音がガラスをふるわせた。機体は静かに動き出し、一瞬太陽の光が反射し、やがて加速し、千歳を目指していつものように少し黒い煙を吐きながら舞い上がった。機体はどんどん小さくなり、虹色わからなくなっていく。追い続けていたカメラを目から離した。それでも小さな点は空に向かって上っていくのがまだ見える。雲に隠れ見えなくなるまでその点をひたすら見つめていた。そして視界から消えた。
「終わっちゃった・・」脱力感の中、撤収の準備を始めた。

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