Part 5 羽田へ、そして・・
 

今日の009Dのスケジュールはこうだ。
JAL1011 羽田9:00発 千歳10:30着
JAL2502 千歳11:15発 関空13:20着
JAL2505 関空14:10発 千歳16:00着
JAL1030 千歳18:00発 羽田19:30着
そして自分のスケジュールはこう決めた。9時前に羽田に着き、1011便の離陸をビックバードのデッキで撮影後SKY203 羽田10:25発関空11:40着で関空へ。展望ホールにて2502 2505便を撮影してSKY206関空16:10発羽田17:15着で羽田に戻り、1030便の到着を待つスケジュールだった。
台風の位置は離れているが、大型台風ゆえ東京でもすでに強い風が吹き始めていた。駅に向かう道すがらビックバードに電話をしてデッキの状況を聞いてみた。1タミのデッキはまだ開場時刻前だったが、6時半から空いている2タミのデッキはオープンしているとのこと。スポットはまだわからないがデッキで最期の羽田離陸をどう撮ろうかと考えながら駅への道を急いだ。浜松町へ向かう電車の中で、携帯で関空の発着状況を調べてみた。多少の遅れはあるようだが、欠航やゴーアラウンドは出ていない様子。JAノLのページでも1011便は出発予定と表示されていた。浜松町に着きモノレールに乗りかえる。朝のラッシュ時とあって羽田が見渡せる進行方向左側の席には座れなかった。浜松町8時13分発、1タミ到着は8時35分。デッキに上がる時間、カメラの準備時間を考えれば撮影時間はそれほど長くとれないと思っていた。
天空橋を出発しトンネルを抜けピックバードがが姿を現した瞬間、ターミナルに目をこらし、虹の翼を探す。「あっ、いた」。北ウィングの少し端のスポットにたたずんでいる姿を見つけた。と同時に頬が緩んでいる自分に気づいた。今日は少し色が鮮やかに見える。雨で洗われたせいなのか、それともラストフライトに向けて整備の人が綺麗にしてくれたのか、そう思いながらデジカメでその姿を写した。そして再びトンネルに入るまで虹の翼を見つめ続けていた。
1タミ駅に着き、エスカレーターを駆け上がり、デッキ直行のエレベーターへ急ぐ。少し息を切らしてたどり着いたそこに1つの看板が立っていた。「本日強風につき展望デッキは閉鎖します」愕然とした。さっき電話で確認した時はまだ開場時間前だった、8時直前に決定されたのだろう。そばいた案内係の人に聞いてみた「これって10〜15分で解除になることってありますか?」「こうなると半日〜1日のことが多いですね。風もこれから強くなるようですし」。焦りが募る。どうするか・・・。今日の滑走路は16。この時間の千歳行きは2タミ前の16Lからの離陸もあり得る。「2タミはどうですか」と聞いてみた。すぐに電話をかけてくれたが話中らしく首をかしげている。その時思った、「今日はこれから飛行機に乗る、今からロビーに入ってしまえばそこで撮影できる」。
係の人に「もういいです」と告げて出発ロビーへ急ぐ。時刻は8時40分過ぎ、夜間撮影に備えて持ってきた三脚をコインロッカーに収め、搭乗手続きや手荷物検査のことを考えるとギリギリかもしれない。焦りのせいか慣れているはずの自動チェックイン機の操作がおぼつかない。係の人に手伝ってもらい航空券を手にする。続いてコインロッカー、雲台を外し三脚をロッカー押し込む、しかし扉がうまく閉まらない。急いで別のロッカーに移す。続いて手荷物検査。修学旅行とおぼしき集団がたむろしている。この列に捕まったらアウト。幸い1つの列にまとまっているようで、空いている列に並ぶ。ピーの音がしないように祈りながら金属探知器を通る。無事通過した。しかしここで問題が発生した。持ってきた一脚が長さ制限に引っかかるらしい。雲台を外してもダメ。持ち込み制限品としてここで預かりの手続きとなる。ここで2〜3分のロス。この時点で8時53分頃。1011便のいる18番スポットに走る。すでに1011便は大半の乗客が乗り込んで、あと何人かを待つだけの状況だったようで走ってきた私に係の人から「○○様ですか?」と声をかけられた。「違いますっ」。
8時55分、ギリギリ間に合った。急いでカメラの準備を始める。しかし18番スポットはブリッジの位置関係から駐機中は機体全体を撮影できる場所が見あたらない。スポットの右側に広い窓があるがここからは尾翼しか見えない。そうなるとプッシュバック後が撮影チャンスとなる。しかしプッシュバックの向きがどちらになるのか想像できない。位置関係的にどちらもあり得る。北向きのプッシュバックなら目の前には来ない、南向きならこの窓の前に来る。レシーバーを取り出しグラウンドに耳を傾けた。管制塔からの指示は「Face to South」南向きだった。トーイングカーに押されて009Dがその姿を目の前に現す。静かにゆっくりと。そして機体の一部がどこも隠れることなく止まってくれた。このあたりのロビーでの撮影は初めてだった。デッキだと見下ろす形になるが、ほぼ同じ目の高さでの撮影に胸がときめいた。最期の羽田出発にあたっての贈りものだったのかもしれない。
やかでエンジン音が高まりタキシング開始。風がかなり強いようでグランドスタッフの方々は体を風に揺られながらも大きく手を振っていた。離陸滑走路は16R。この場所からだと180度回転してRWエンドに向かう。一度視界から消えた009Dは今度は右側の姿を惜しみなく見せながら16Rに向かって行った。ここまでの間、すでに何機かが16Rを離陸している。強い南風のせいかエアボーンが早いようだ。009Dもこのあたりで上がってくれればと思いながら、離陸の時を待つ。場所的にRWエンドは見えない。しかしタワーからの「JapanAir1011 Cleared for Takeoff 16R」のコールの後、高まるエンジン音が聞こえた。昨日まで当たり前だった光景、そしてこれまで何度撮って来た光景。しかしこれらも今日で終わる。最期の羽田離陸の時間を迎えた。
どこで撮ることになってもこの瞬間はフィルムで撮ることに決めていた。EOS-3+EF70-200F4L、カメラは違えど初めての撮影で使ったレンズ。やがてファインダーの中に飛び込んできた機体にズーミングして構図を合わせシャッターを切る。ファインダーの中の009Dはやがてその体を空に向けて持ち上げ 滑走路から後脚が離れていった。カメラを1Dに持ち替え空に舞い上がっていく009Dの姿を見えなくなるまで追い続けた。
カメラを肩から外し、大きく深呼吸する。最期の羽田離陸を見届けることができた満足感でいっぱいだった。初めて撮るアングルから撮れた、右も左もエアボーンも撮れた。もしデッキで撮影していたら、2タミに行っていたら、今日関空行きを決断していなかったら、ここからは撮れなかった。今のこの気持ちは味わえなかった。いやそもそも最後の羽田離陸自体、撮れなかったかもしれない。「後悔したくない」この思いから、調べて、葛藤して、走って、ようやくつかんだこのチャンス。自分の選択は間違っていなかった思うと同時に、今日はいい1日になりそうだと思った。

あっ、いた
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